実績

アイデア発想モデル「AYモデル」の研究実績

日本創造学会 第46回研究大会 発表学生賞受賞

日本創造学会 論文誌 (J-STAGE)2026年29巻 掲載予定

1. 概要

イノベーション創出のための「組合せ」を促すモデル

イノベーションは、異なる「別領域」の要素を「組合せ」ることで生まれるとされます。しかし、従来のアイデア発想手法には、この「別領域」との「組合せ」を積極的に促す仕組みが不足している、という課題がありました。

本研究で開発したアイデア発想モデル「AYモデル」は、この課題を解決するために、アナロジー思考(類推的な思考)を応用し、「別領域」の要素を導出 し、さらに大喜利の問いの型(「〇〇みたいな××、どんなの?」) から「組合せ」の要素を取り入れた独自の手法です。

2. 特徴と有用性

💡 従来のブレインストーミング等と比較した優位性

ブレインストーミング、バリューグラフ、2軸図の構造シフト発想法といった既存の手法との比較検証(主観的評価)の結果、AYモデルは以下の点で高い有用性を示しました。

評価指標特徴従来の他手法との比較結果
新規性今まで思いつかなかった新しいアイデアの発想しやすさブレインストーミング、バリューグラフ、2軸図の構造シフト発想法の全てと比較して有意差が確認されました。
柔軟性多視点でアイデアの発想しやすさブレインストーミング、バリューグラフ、2軸図の構造シフト発想法の全てと比較して有意差が確認されました。
独自性・論争性重複しない(類似しない)、あるいは物議を醸すアイデアの発想しやすさ全手法と比較して有意差が確認されました。

「別領域」の組合せによる効果

AYモデルは、日頃の業務や組織文化に根差した同質的な思考パターンから離れ、「別領域」の要素を意図的に組み合わせて発想を促します。

  • 多視点でのアイデア創出アナロジー思考の応用により、より距離の遠い「別領域」の具体的な要素に辿り着き、これを組み合わせることで多角的な視点からのアイデア発想を可能にします。
  • 集団浅慮の回避: アイデアを「別領域」の要素の「組合せ」として間接的に提示することで、発案者は心理的な距離を保て、斬新で論争性のあるアイデアも受け入れられやすくなります。
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🤖 LLM(生成AI)との連携

「AYモデル」は、LLM(大規模言語モデル) との連携による効率化が可能です。

  • AYモデルで、アイデア発想のテーマから抽象化・具体化を通して「組合せ」る要素を人間が導き出す。
  • その「組合せ」の要素をプロンプトとしてChatGPTなどのLLMに指示することで、短時間で「別領域」との「組合せ」による具体的なソリューションアイデアを生成できます。
    • 検証結果: テーマのみ指示した場合と比較し、「組合せ」要素を追加した方が、アイデアの新規性評価が有意に高まる可能性が示唆されました。

3. 使用方法

AYモデルは、「A:目的」と「B:対象物」という2つの軸を中心として、要素の抽象化と具体的な連想を繰り返すことで、アイデアの種となる「別領域」の要素を導出し、それらを組み合わせてアイデア発想を行います。

AYモデルの構造

要素意味矢印意味
A: 目的アイデア発想テーマの目的抽象度が高くなる(「どうしたら?」)
B: 対象物アイデア発想テーマの対象物具体化される(「どんなの?」)
a-1〜a-3「A:目的」の抽象度を上げた上位概念A-1〜A-3「a-1〜a-3」の具体的な連想物(別領域の要素)
b-1〜b-3「B:対象物」の抽象度を上げた上位概念B-1〜B-3「b-1〜b-3」の具体的な連想物(別領域の要素)

使用ステップ

AYモデルの具体的な利用ステップは以下の通りです。

  1. テーマを設定
    • テーマを「A:目的」と「B:対象物」に分けて記載します。
    • 例: 「A:目的」読みたくなる、「B:対象物」社内メッセージ
  2. 抽象化・具体化の実行
    • 「A:目的」の抽象度を上げて「a-1」に記載し(例: 見やすく学びになる)、その具体例を「A-1」に記載します(例: 漫画)。
    • このプロセスを繰り返し、「A-3」まで、そして「B:対象物」についても「B-3」まで同様に繰り返します。
    • 上位概念の連想に制限はなく、自由に行います
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  3. 「組合せ」の発想
    • 導出した要素(A~A3とB~B3の計8要素)の中から任意の2要素を選択します。
    • 〇〇みたいな××、どんなの?」という問いに、選択した単語を代入し、アイデアを発想します。
    • 例: 「A-3:ドキュメンタリー」と「B-3:時計」の組合せより、「ドキュメンタリーみたいな時計、どんなの?」という問いを発想し、具体的なアイデア(ソリューション)を創出します
      • →「タイムリミットメッセージ」〇〇時間〇〇分〇〇秒後に発表をします!と予告。ドキュメンタリーの物語性と、時計の時間的制約の要素を入れたアイデアです。

効率化のポイント

  • LLMの活用: 導出した2要素を組み合わせた問い(プロンプト)をChatGPTなどに与えることで、アイデア発想のプロセスを短縮し、幅広いアイデアを迅速に得られます。
  • 反復的な試行: 2軸図と同様に、AYモデルにおける抽象化・具体化の試行、および複数人での実践を推奨します。

【参考文献】

シュンペーター(1977)「経済発展の論理(上)」岩波書店.
石井浩介・飯野謙次(2011)「価値づくり設計」養賢堂.
今泉友之・白坂成功・保井俊之・前野隆司 (2014)「親和図と 2 軸図を用いた構造シフト発想法の主観的評価」『日本創造学会論文誌』
細谷功(2023)「アナロジー思考」東洋経済新報社
安斎勇樹・塩瀬隆之(2020)「問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション」学芸出版
前野隆司(2014)「システム×デザイン思考で世界を変える」日経BP社